『愚の支配者』
未来からの訪問者を名乗る彼は、実に精巧に作られた立体映像だった。 その事実だけで、彼のいた次元世界が、我々の先を行く技術文明を持っていたであろうことを、うかがい知る事が出来るのではないかと思う。 しかしながら。 そうした高度な文明世界であるに…
選んだのは確かに、マザー・システムと呼ばれるデータ集積回路だった。 『多大なる生産は、多大なる消費を生みます。それは残りわずかなエネルギー資源の浪費に他ならないのです』 そこで、マザー・システムは、ひとつの選択をした。 優秀なるデータのいくつ…
「枯れてしまったのだ」 彼は、遠くへ視線を投げたまま、そう言った。 「いや、枯らしてしまったのだと思う。我々が・・・」 生物の存在意義は、それらの持つ「遺伝子」の名の通り、「伝え遺すこと」だという。 次の世代へ伝え遺すこと。 それには、エネルギ…
「そう遠くない未来に、君たちは選択を迫られるだろう」 「選択?それは、どのような・・・」 「君たちが『人類』を選ぶのか、『地球』を選ぶのか、というものだ」 彼はその答えを知っている。何故なら、彼ら―支配者たちは、未来の人類であるはずなのだから…
「しかし、我々が干渉しているのは細胞レベル程度に留まります。それ以上のことはありません。遺伝子を操作して迎える結末の愚かさを、身を持って経験してきたのですから」 のっぺりとした顔は、穏やかというよりは表情が無いように見えた。 「あなた方は、…
「いままでのあなたの固定概念を根底から覆すことになるかもしれませんが」 彼女が遠慮がちに口を開いてこう言った。 「いままでも何度も、こちらの考えを真っ向から打ち砕かれてきましたから、今更何を言われても驚きませんよ」 僕はそう言って苦笑し、意見…
「とりあえず、そちらにおかけください」 若い医師は、穏やかな笑みで着席を促した。 座るや否や、僕は堰を切ったように喋りだしていた。面会が通った喜びから、少し興奮状態にあったためかもしれない。そして、貴重な時間を割いてもらっているため、それほ…
愚なる支配者とは、奴らを指すのか、われわれなのか、はたまた、新たに浮上する第三種の存在なのか? 進化への抵抗をあざ笑うように、眺めているだけとも言える。 進化への抵抗とは、奴らにとっての自滅を意味する。 自然淘汰を促す弱肉強食のルールを踏み外…
「宇宙服は、宇宙船内や宇宙空間で作業をするために必要です。海へ潜る時に、ボンベをつけた潜水着を身に付けるのも同じことです。この理屈は分かりますね?」 「分かりますが、それとこの問題がどういう関係にあるのでしょうか?」 「魂や意識をそもそもの…
「死ぬつもりなんて全然ないんだけどさ。ああ、死ぬのが怖いってのも無いぜ」 そう言って彼は、両腕を僕の前に晒し出した。 そこには無数の傷痕が刻まれていた。彼の抵抗の証しなのだろう。つい最近つけたらしい生々しいものもあった。 所謂、リストカットと…
「結論から申し上げますと、実に簡単なことです。やつらを騙せばいいんですよ」 先生の助手をしていたという若い研究員は、振り返るなりこう言った。 「え・・・騙す??そんなことが出来るのですか?どうやって・・・いや。もとより、われわれを完全支配して…
自分は、操られているのではないか? という疑問を抱き始めてからの僕は、言い知れぬ不安におびえる・・・というよりは、妙なジレンマを感じていた。 だとしたら、どうすればいいのか。そもそも、誰が僕たちを操っているんだ? そして。 「やつらが僕の疑問…
かつて先生はこうも言っていた。 「むしろ気づくべきではない。しかし、私はもう気づいてしまったのだ。確証があるわけではないが、近々私は命を絶つかもしれないだろう」 「何故ですか?!こんなすばらしい功績をお持ちなのに??」 まるで予測しなかった言葉に…
先生の言うことは、まるで意味がわからなかったが、衝撃的でもあった。 「何のために生きているのか、だって?そんなことで悩んでいるのは、一部の人間だけだよ。そしてそもそも、我々が生きている意味なんて無いのだよ。生きて いる意味を探していかないと…
『理論も検証も、最適なはずです。それなのに―』 突如として、すべてが、消失してしまったのは。 「・・・彼らには、分からない、解明できても、理解しがたい概念なのだと思います」 “生まれたこと、生きることに疑問を持ち、模索し続ける” 「そういう、存在な…