どこにでもいる普通の・・・よりは、まぁ、多少地味めではあるかもしれない、小社の事務職。
ああでも、経理とか総務なんて、かっこいい仕事じゃないな。
庶務・・・ね。まぁ、そんなところだね。
週末のささやかな楽しみはといえば。
小洒落たカフェで文庫本を読むことくらい。
もちろん一人よ。ほっといてよ。どうせつまんない女なんですからねーだ。
「ここ、よろしいですか?」
「は?」
カフェの併設する大型書店で買ったばかりの本を読みふけっていると、上から声を掛けられた。
見上げると、知らない男性が一人、今にも対角の椅子に腰掛けようと、こちらを伺っている。
「・・・・・・・」
相席?混んで来た・・・訳でもなさそうなんだけどな。
ざっと周りを見回し、再び男性に向き直る。
「・・・・・・どうぞ、私もう行きますから、遠慮なく使ってください」
男が何か言いかけたが、構わず文庫本をかかえ、カバンを手に足早に席を後にした。
気味が悪い。
変なヤツには関わらないのが得策だしな。
―きっと何か、怪しい勧誘に違いない。
こんな地味でつまんない女に、声掛けてくるはずは無い。
「・・・跡つけてこないよな」
かなり歩いた所で店のほうをちらり振り返るが、その気配は無さそうだった。
しかし念には念を入れ、歩を早めたままで駅に向かうのだった。
一番痛いのは。
「・・・お気に入りの店だったんだけどなぁ・・・」
当面あのカフェを利用できなくなることだった。