こないだは、皆既月食だったか。
週間天気予報で一週間雪マークがちらほらしていたので半ば諦めていたのだが、予定時刻になると、うっすら雲が晴れてきて、断続的だが見届けることが出来た。
今晩は、なんとか流星群が大量投下されるという。
ふたご座だったかしし座だったか?
「気のせいかな・・・毎年何かしら降って湧いてるように思えるのは」
ベランダの窓を少し開け、夜空を仰いで見る。
風呂上り、折角温まった身体を寒風に晒す暴挙に出ているなぁ。
「・・・・・・・・・・・・さっぶ。」
がららら、とわずか一分足らずで限界を覚えてサッシを閉めた。
―こんな、いつやってくるか分からんものを、ボーっと待ってられんっつーの。風邪引くわ。
すぐにヒーターのスイッチを入れる。
「なんか飲もう。冷えた」
外気に触れたのはほんのわずかの時間だったが、それでも体温をかなり奪われる感覚に陥る。それほど、今夜は格段の冷え込みだった。
部屋を出て階段を下りると、キッチンへ直行。冷蔵庫を物色する。
―確かまだミルク残ってたな。
ココアの袋を探し出し、大き目のマグカップにがっつり入れ込むと、ミルクを弱火に掛けて温め始めた。
「こーゆー時、レンジがあったら手間も汚れもんも減るんだろうなぁ」
キッチンが極端に狭いという理由で、我が家には電子レンジが無い。オーブンも無い。あるのはパン焼き用のトースターのみだ。それも、つい最近までは、食パンしか焼けない専用だったのだから、それだけでも進歩したと言えよう。
「・・・・・誰だろうな。予測はついてるけどな」
小鍋に入れたミルクがふつふつとしてきた頃、居間の電話が鳴った。
ガスの火を消し、受話器を取ると、やはり。
「あ!僕です!今バイト終わりました!」
若いっていいな。疲れ知らずの元気な声だなぁ。おねえさんは羨ましいよ。
「残業・・・だよね?遅番でも、こんな時間にならないと思うし」
「残業と言うか、倉庫の整理手伝ってました!気が付いたら9時前で、慌ててタイムカード押して出てきました!本当にヤバかったです!」
人がいいのは相変わらずだな。頼まれたら断れない性格なの、あまり付け込まれ過ぎないといいんだが。
「何とか寮の門限間に合いそう?」
「バイク飛ばしていきます!」
「そか。気をつけてねー」
「はい!それじゃあ」
彼が電話を切りかけたとき、ふと思いついた。
「あ、そうだ」
「はい?」
こっちが切り終わるの確認するまで電源切らないからな。すぐに応答する。
「今日さ、流れ星いっぱい見えるらしいよ」
「ああ!そういえば、バイト先の人たちが話してました。ふたご座流星群ですよね、確か?」
ああ、ふたご座なのか、ありがとう謎が解けたよ。
「知ってたんだ?うん、それだけ。じゃあ、おやすみ、気をつけて帰りなよー」
「はい!ハルカさんも風邪引かないようにしてください。今晩かなり冷えますから!おやすみなさい!」
いやいや、自分こそ風邪引くなよ。
さっきからずっと外に居るんだろうことは理解したし。携帯から聞こえる雑踏もあるけど、寒さの所為でしきりに鼻をすすっているのが聞こえたからなぁ。
受話器を置き、キッチンでココアを作り終えると、マグカップで両手を温めながら部屋へ戻った。
翌日。
PCを開いてメールチェックしていたら、珍しいことに、いつもは電話を掛けてくる彼からのメッセージを確認した。
寮の部屋から流れ星を見たという内容だったのだが。
―受信時間・・・・・4時。マジに起きていたとしたら、今日の講義が心配なんだけども・・・
あと、今日も遅番でバイトのはずだし。
「・・・分ってはいたけど」
予測の範囲だったが、彼はまだまだ、こういうイベント事に子供っぽくはしゃぐ性質が強い。つまりは、ミーハーなのだ。ちょっと先行き不安が残る。
まぁ、それでも。
「若いうちだしなー」
まだまだ思い切り楽しんで欲しいと思うのだった。
(つづく)
※この作品は『小説家になろう』サイトにて2013/11/07投稿したものです。