「ねぇ、パパ。最近あの子ったらね」
夕食をほおばっている夫に向かって、ふぅ、と大げさにため息をついてみせると、小学校に上がったばかりの一人息子の愚痴をこぼし始めた。
「どうかしたのかい?」
「パパがこの前買ってあげたゲームがあるでしょ?あれにものすっごく、今夢中でね」
「喜んで遊んでくれてるなら、いいことじゃないか。ああ、夜更かししたり、言うこと聞かなかったりして、君の手を煩わせているとか?」
「夜更かしはしないんだけど、ちょっと困ってることがあるの」
ママの話によれば、気に入らないこと、やりたくないこと、嫌いな食べ物があるとすぐに、ある言葉を決まって口にするのだという。
「僕が悪いんじゃないもんっ。全部妖怪のせいなんだもんっ」
そう言って、逃げたり投げ出したりするのだそうだ。
「ふぅむ、そうか。それはちょっと、困ったなぁ・・・。よし、今度僕のほうから、よく言って聞かせてみるよ」
「ええ。お願いするわ。普段あまり怒らないパパから言ってもらえると、あの子にも効くんじゃないかって思うのよ」
しかし、この度は余程、この台詞が気に入っているのか、息子もなかなか引かなかった。
「言うこと聞かないのは、僕じゃなくて、妖怪のせいなんだよっ!」
これが世に言う、反抗期の始まりなのかと、若い夫婦はほとほと困ってしまった。
「反抗期は自立への第一歩って言うからね・・・少し、様子を見てみようか」
「そうね・・・ちょっと大変だけど・・・学校では、お友達と仲良くしているみたいだし・・・特に、先生からも何もお咎めはないようだし。明日、ママ会があるから、知り合いのママさんにもいろいろ聞いてみるわね」
そうしてこの案件は、少しの間保留ということになった。
ところが。
この一連の出来事を、快く思っていないものたちがいたのだった。
(続く)