しばいヌの地下吠え(狩)

思い付きを一方的に吐き出しているブログです☆ひととなり詳細については『備忘録カテゴリ』をご参照ください。

「咲かない花はない」(再録)

あの人は、そう、信じ続けていたけれど。


「今年も、蕾ごと落ちてしまいましたわ、ね」


まだ鮮やかに色づくそれを拾い上げて、短くため息をつく。


『彼らが咲くことを、諦めない限りそして、僕たちが、信じることを諦めない限り』


努力家の、彼らしい言葉だと。今更ながらに思う。




もう、ずいぶんと昔の話のはずなのに。

 

凍りついた灰色の大地には、未だに、息づく命を許さないでいるようだった。


『環境的には、何の問題もないはずなんだ』


打ち出される数値データの類を、穴の開くほど見直してみても。


種は芽吹かず、いつしか大地に消えて。


双葉は、そのままの形を残して枯れ。


蔓は、手持ち無沙汰にしばらく地を這うと、やがて。


錆びた針金のように、折れ落ちた。


それでも、諦めずに試行を重ねついに、蕾をつけるまでに至った。


しかし、未だに花は開いていない。



そんなことが、もう何年も、何十回も続いている。


『花にこだわるのは、何故ですか』

 

『咲いたら、綺麗だろう?

 

それだけ、ですか?

 

『うん』

 



真意を測りかねたまま、それ以上の追求もせずに、そのときはそれで会話が途絶えてしまったが。


「灰色の大地に、色とりどりの花が咲き乱れる光景は確かに、綺麗かもしれないですね」


彼の跡を引き継ぐことに、抵抗がなかったわけではないが、不思議とここまで、続けている自分が居る。



規約違反となるのを承知で、彼のなきがらの一部をこっそりと持ち出し、この地に埋めた。

 

彼の遺言だったからだ。


『この星いっぱいに、いつか、花が咲くのを見届けたいんだ。一番近くで、ね』


勿論、簡素にこしらえた墓標の傍らにも、いくつもの種を植えていた。


残念ながら、今年もそのほとんどは枯れ朽ちて、時折吹く風に乾いた音を立てている。


唯一残った緑も、今朝、待ち焦がれていた蕾を、あっけなく地に落としてしまう。


だが。


瑞々しくやわらかなそれは、確かに。


「まもなくですよ、きっと」


この星の、新たな命の未来を予感させていた。


そしてそれは。


この星とひとつになりつつある、彼自身も、感じているに違いない。