しばイッヌの日々

いち平民のライフログです。ひととなり詳細については『自己確認』をご参照ください。

「最終終着星」(移稿)

ぼろぼろの宇宙船が一機、とある惑星に向けての進路をとっていた。


「大気圏に入るぞ。総員、衝撃に備えろ」


予想以上にきしむ船体に、乗組員はいよいよと覚悟して待機する。


揺れは、かなり長い時間続いたように感じた。それほど、この船はひどくあちこち傷んでいた。

いや。

自己修復機能はあるのだが、はるかに上回る速度の機体劣化に、それは追いつけなくなっていたのだ。


彼らはもうひとつの覚悟を決めていた。それは。


「よし、突入はなんとか成功した。これより着陸準備に入る。この星が恐らく、我々にとっての最終目的地点となると思う。各々、心を決めて臨むように」


もはやこの船には、再浮上する力すら残っていないのだった。

惑星発見の時点で、その旨は乗組員全員に伝えられていた。


ならば何故、彼らはあえてここに降り立つ決意をしたのだろうか。




「同型機へ救援信号は送ったが、甘い期待はするな。万が一運がよければの話だからな」


艦長に委任された執行代理部が、現状と今後についての厳しい見解を、淡々と報告する。



「船体の損傷は、もはや自己修復では間に合わない状態だ。その件に関しては、担当各位が実地において周知のことと思う」


船内が、静かに重い落胆の空気に包まれる。

「経年劣化というものだ。あらゆるものには始まりと終わりがある。終わりを迎えたときに、もはや打つ手は無い。既に、指揮系統を総括する艦長が倒れてしまった今、我々執行代理部が担える責務にも限界がある」


「・・・解体、ですか?」


隊員の一人が、恐る恐る挙手をして問う。


「場合によっては、な」

執行代理の男が軽く一瞥を向けて答えた。



解体とは、解散と同意のことで。



船体を捨てて、各自が新天地へと新たな出立をするということになる。


勿論、このまま船体に残って運命を共にするという選択もある。
老兵たちは、主に後者になることが多い。


「新しいところへ行ったとて、なじめずみじめに朽ち果てるだけじゃ。ならば潔く、この船と最後のときを迎えるまで、共にあろう。未来多き若者たちよ、老いぼれに構わず、先へ征くがいい」



かくして、居残り組と別れ船を下りたものたちは、未開の星の探索へ向かうこととなった。



生存に適した環境を選んで着陸したとは言え、これまでとはまったく異なる新しい世界である。

予想だにしない危険が待ち受けているかもしれないし、何よりも。



惑星そのものに淘汰される可能性だってあるのだ。


「未知への旅路とは、冒険とは、そんなものだ」


誰しもが、分かりきっていることなのかもしれない。


しかし、進まなくてはならないのだ。


「託された、使命を果たすまでは」



志半ばで倒れるものも、少なくない。



そんな、共に旅してきた同志たちの分までも、受け継いで、やり遂げなければならないことが、彼らにはあったのだ。








救難信号を捉えた宇宙船団が、いくつか惑星に降り立ったときには、時既に遅く。

さび付いた機体は、そのほとんどを、大地に還さんと静かに横たわっていた。



「乗員も、絶望的と思われます」


「そうか」


何も収穫を得られぬままに、船団は再びそら高く浮上すると、大気の向こう側へ消えていった。