しばイッヌの日々

いち平民のライフログです。ひととなり詳細については『自己確認』をご参照ください。

第六文「容器」(移稿)

「宇宙服は、宇宙船内や宇宙空間で作業をするために必要です。海へ潜る時に、ボンベをつけた潜水着を身に付けるのも同じことです。この理屈は分かりますね?」

「分かりますが、それとこの問題がどういう関係にあるのでしょうか?」

「魂や意識をそもそもの根本として考える場合、肉体は単なる器です。それがまず、基本となる我々の概念です」

やはり。

宗教論者である彼に話を聞いたのは正解だったと僕は確信した。

生物の定義の仕方がまるで違っている。

科学を思考の根拠としている先生が、何故宗教家の彼と懇意だったか、今ならその疑問が解けそうな気がしてきた。

もっとも、真っ先に我々の一般的な固定概念であるダーウィン進化論や地動説は完全否定されてしまったが、これは予測の範囲だ。

「つまり、宇宙服や潜水服は肉体を指し、そこに入る我々が魂だと例えられるわけですか?」

「はい。しかし、根本がまるで違うのですが」

「どういうことですか?」

「魂は、この世に生まれいずる際には器を選べない、ということです」

彼は一つの絵本を差し出した。

「これを見て、今のあなたならどうお感じになられるでしょうね」

 


―空を飛ぶコップ・・・・・・


空を飛びたいと強く願ったコップは、本来の役割である飲み物を入れるという運命を放棄し、食器棚から飛び出し・・・・・・・・地面に落ちて粉々に砕け散った。

生まれ変わったら、今度こそ必ず空を飛ぶと夢見ながら。


以前の僕なら、子供向けの夢想的な童話の類だと一笑していただろう。

 

「・・・・・・・・」

 

魂は、必ずしも自分の望んだ器を選ぶことが出来ない。

 


このコップは極端な例なのかもしれないが。

 

「いかがでしたたか?」

「成る程・・・つかめてきたような気がします」

「それはよかった。お役に立てたようならば、幸いです」

彼はどちらともとりにくい微笑を浮かべていた。