「宇宙服は、宇宙船内や宇宙空間で作業をするために必要です。海へ潜る時に、ボンベをつけた潜水着を身に付けるのも同じことです。この理屈は分かりますね?」
「分かりますが、それとこの問題がどういう関係にあるのでしょうか?」
「魂や意識をそもそもの根本として考える場合、肉体は単なる器です。それがまず、基本となる我々の概念です」
やはり。
宗教論者である彼に話を聞いたのは正解だったと僕は確信した。
生物の定義の仕方がまるで違っている。
科学を思考の根拠としている先生が、何故宗教家の彼と懇意だったか、今ならその疑問が解けそうな気がしてきた。
もっとも、真っ先に我々の一般的な固定概念であるダーウィン進化論や地動説は完全否定されてしまったが、これは予測の範囲だ。
「つまり、宇宙服や潜水服は肉体を指し、そこに入る我々が魂だと例えられるわけですか?」
「はい。しかし、根本がまるで違うのですが」
「どういうことですか?」
「魂は、この世に生まれいずる際には器を選べない、ということです」
彼は一つの絵本を差し出した。
「これを見て、今のあなたならどうお感じになられるでしょうね」
―空を飛ぶコップ・・・・・・
空を飛びたいと強く願ったコップは、本来の役割である飲み物を入れるという運命を放棄し、食器棚から飛び出し・・・・・・・・地面に落ちて粉々に砕け散った。
生まれ変わったら、今度こそ必ず空を飛ぶと夢見ながら。
以前の僕なら、子供向けの夢想的な童話の類だと一笑していただろう。
「・・・・・・・・」
魂は、必ずしも自分の望んだ器を選ぶことが出来ない。
このコップは極端な例なのかもしれないが。
「いかがでしたたか?」
「成る程・・・つかめてきたような気がします」
「それはよかった。お役に立てたようならば、幸いです」
彼はどちらともとりにくい微笑を浮かべていた。