しばいヌの地下吠え(狩)

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第十文「思惑、それぞれ(サトシの場合)」(移稿)

―ったく、ユキヒロはほんっとに、単純というか、純粋というか・・・まっ、そこがこいつのいいところなんだけどさ。

ストレートのアイスティーをちびりちびり飲みながら、サトシは思っていた。

二人が知り合ったのは大学に来てからだが、サトシの方は、ユキヒロの事を高校時分から知っていた。何故なら彼は当時、バスケット部の優秀なプレイヤーだった為、学内で注目されていたからだ。

サトシの方は、どちらかというと文系の少年だったし、クラスが一緒になったことも無かった。つまり二人が接触する共通点はその頃ほとんどなかったのだが。

―これであいつ、立ち直れてるんならいいんだが・・・。

試合中の不慮の事故で、ユキヒロはバスケットを断念せざるを得なかったのだ。

彼が読書にのめりこみ始めたのは、そこからだった。

本来なら、スポーツ特待生として大学の進学を約束されていたユキヒロだったが、その道を断たれたため、理文系の大学を選択し、受験した。


見事合格し、そこで親しくなったのが、サトシだったのだ。

その頃になると彼はすっかり文学青年となっており、サトシも声が掛けやすかった。


ただ、声を掛け親しくなった理由は、ユキヒロの心中を心配して、というのもある。


―バスケのレギュラーの頃は、周りもちやほやしてくれたし、本人もやりがいあったから楽しそうに見えていたけど・・・事故ってから、いろいろ変わったみたいだからな。


元来明るく気さくな性格ではあったが、同時に、真面目で不器用でもあった彼は、、気遣いから何でもないように振舞ってはいたが、将来を約束されていた彼にとって、その悲しみは例えようもないものであったことだろう。

そして、恐らく誰も、共有できないのだ。





「まぁ、さ。それくらいで簡単に諦めろとまでは言わないし・・・何かあったら、また相談に乗るしさ」

目の前で落ち込む彼に、サトシが笑いながら言った。

「うん、ありがとう。またよろしく頼むよ!」

直ちにいつもの笑顔が返ってきた。


―本に没頭して現実を遠ざけるより、人間に関わろうとしてくれる方が、まだ救いがあるだろう。何より、そういう変化が起きてくれたことが、俺も嬉しいからな。

サトシは最後の一口を押し込むと、アイスティーのグラスを一息にあおった。