「うわー!ほんと広いねー!こっちの駅で降りることはあっても、本屋って用事無いから寄った事なかったもんねー」
ものめずらしげに全体を見渡し、サキコが感嘆の声を上げた。
「で、例の彼のショップは何処よ?」
「レジの右奥」
「オッケー!いこいこ♪」
ほんま嬉しそうだな。浮かれるサキコとは対照的に、足取り重くカフェのカウンターへ向かった。
あー、なんかやっぱ、感覚違う。
久しぶりに訪れた店内は、雰囲気はそのまま残しつつも、微妙にテーブル配置などが変わっていた。
「返却棚・・・消えたか」
ワンフロアぶち抜きの書店は、とにかく規模が大きく広い。接客や新刊入れ替えなど在庫整理だけでも大変なのに、客が読み漁った書籍の後片付けなんて、とてもじゃないが手が回らないだろうことは、当初から用意に推測できたことだ。
―人件費の問題が多いかと思われるな。
「ホワイトモカラテ、トールで!」
ここはほぼセルフサービスなので、レジカウンターでオーダーを済ませて、商品を受け取ってから好きな席へ座るのだ。早速サキコが注文を決める。即断即決が信条だけに早い。
「向こうのテーブルに行ってるよー!」
あれ。もうドリンクもらったのか。というか、私が注文迷いすぎてる所為だろうな。ワンテンポ以上遅れを取って、ようやく決定。
「ダークチョコレートのソイラテ、ナッツトッピングで」
作るのも手間がかかったらしく、テーブルに着いたときには、サキコのドリンクはほぼなくなりかけていた。
「相変わらず、マイペースねー」
苦笑される。
「マイペースという意味では、サキコもでしょ。お互い自分ペースってことだよ」
「ヘリクツー!アンタ優柔不断なのよー!あ、ところでさ。彼今日いた?」
そう言いながら、カウンターをキョロキョロと分りやすく物色し始めた。
「あからさまな探し方だな・・・。見る限り、カウンターと店内には見当たらないねー」
カフェを目指したときからちらちら見ていたのだが、らしき人物は見つけられなかった。
「割と身長高い人みたいだから、そういう飛び抜けて目立つ思うんだけど・・・いないっぽいねー。まぁ・・・いつもより一時間早く来てるから、まだきていない可能性もあるけど・・・休みの日かもしれないしー」
「えー、折角朝早くからいろいろ気合入れてきたのにー!」
いやそら、そっちの勝手な都合だろ、と密かに突っ込んでおいた。