人人の寝静まる深い夜は、とくに[それ]が、鮮明に見えるという。
「ひとつひとつは、小さな糸くずなのよ」
ぼんやりとした光を放つように見える[それら]は、ゆっくりと天向かって上昇していく。
「これって、死んだヤツらの魂とか、そんなものなのか?」
呆然とその光景を見上げていた少年が問うた。
「魂より、もっとちいさな意思・・・いえ、意思すら持たないものもあるかしら」
少女が言うには、ひとつの[共通目標]にむかって集まっているのだという。
「共通目標?」
「いろいろよ。慈愛に向かうものもあれば、滅びをもたらすものもある。それぞれが意思を持たないマテリアルの場合は、強固な意志によって引き寄せられ、そのまま吸収されることもあるから」
少女は淡々と話す。
彼女にとっては、他愛のない日常の出来事のひとつに過ぎないのだろう。
「で、今のこれらって、どっちなんだ?悪いほうか??善い方か??」
焦れた少年が、さらに問いかける。
「あなたに何処まで見えているのかは分からないけれど・・・はっきり言って、分からないわ」
「あんたも、そんなに見えていないって事か」
「違うわ」
「じゃあなんで」
「善悪の価値観は、当事者が決めることだもの」
彼女たちにとって、死とは。
「編み上げたセーターが、徐々に傷んでほどけていくようなもの」
なのだそうだ。
その後で、[終わり]がくるのだという。
「糸そのものの繊維が、ほどけて散っていくのよ」
そうして。
今彼らが見送るような、まるで、淡雪が雲に吸い込まれていく逆回転映像のような光景が、しばしばみられるのだという。
「吸い込まれないヤツは、どうなるんだ?」
「溶けていくの」
「何処へ??」
「すべてに、よ」
「????」
つまりは。
次元宇宙の構成元素として[還る]ということらしかった。