「記憶喪失には、主に二つの理由があるの。ひとつは、何らかの理由によって、記憶へとつながる糸が、断ち切られてしまっているもの。もうひとつは、記憶そのものが、なくなってしまっているもの
」
手繰る糸が残っていれば、修復は比較的容易いのだという。しかしながら。
完全に抜け落ちてしまった記憶のほころびは、その大きさに合わせて、新たに掛け接いでいくしか、手立てが無い。
「または、新しく編み上げていく、とか」
あむが、こよりの言葉に続いた。
「いずれにしても」
くくるが、二人に割って入る。
「彼がどのパターンなのか、確かめる必要があるわ」
そう言って、おおよそ少女の容姿にはそぐわない、古びた糸巻きをゆっくりと、そして高く掲げた。
彼女が瞳を閉じて何か少しつぶやくと、糸巻きは手の中でくるくると回り始めた。
それは、徐々に速度を増して、まるで小さな竜巻を起こしているかのようにも見えた。
だが、やがて糸巻きはただ、カラカラと空回るような音を立てるだけで、止まってしまった。
見守っていた二人の顔色が、不安に曇っていく。
「・・・ちょっと、手間がかかりそうね」
くくるも、ふぅ、とひとつため息をついた。
彼女の糸巻きに引き寄せられて絡めとられた糸は、わずかに二つだけだった。
「まぁ、無いよりはマシね」
こよりが苦笑した。
「あむにも、たくさん頑張ってもらわないといけないかもしれないわ。」
まだ心配そうに二人の顔を覗き込んでいる少女に、こよりが微笑みかけながら言った。