「結論から申し上げますと、実に簡単なことです。やつらを騙せばいいんですよ」
先生の助手をしていたという若い研究員は、振り返るなりこう言った。
「え・・・騙す??そんなことが出来るのですか?どうやって・・・いや。もとより、われわれを完全支配しているというやつらを騙すことなぞ出来るのですか?」
「ええ、出来ますよ。科学的根拠を突き詰めていけば、可能になるでしょう。私はまさにその研究を進めているところですから」
再び彼は、デスクのパソコンに向き直って作業を続けた。
「では、先生は・・・教授は何故」
「解明が間に合わなかったか、導き出した成果に不備があったかのどちらかでしょう」
言い終わる前に彼が答えた。
「ということは、教授はその答えを持っていたが、実践できなかったということですか?」
カタカタと無機質な音が、しばらく室内に響く。
「騙すことに関しては、確信を持っておられたのでしょうか?」
彼の作業を邪魔したくないと思いつつ、質問を急いてしまう自分をどうしても抑えられなかった。
「人体での検証が不完全なのです。自ら被験者となり、何かしらデータを取ろうとしたのかも知れません。そしてその段階では、成功するか失敗に終わるか、本人すら分からないのです」
つまりは。
先生は自身が実験体となり、彼らや他の研究員たちに後の研究の全てを任せたということか。
自らの死をも、全て研究に捧げたのだ。
騙し打つ、ということは、現段階では仮説に他ならない。
ここから始まって、様々なデータを取り、検証を続けていくしかないのだろう。地道に。
もし僕が先生なら、同じ決断に至るだろうか?