しばイッヌの日々

いち平民のライフログです。ひととなり詳細については『自己確認』をご参照ください。

第八文「離脱」(移稿)

「とりあえず、そちらにおかけください」

若い医師は、穏やかな笑みで着席を促した。

座るや否や、僕は堰を切ったように喋りだしていた。面会が通った喜びから、少し興奮状態にあったためかもしれない。そして、貴重な時間を割いてもらっているため、それほど長居出来ないことへの焦りもあったのだろう。

一通り話し終わってから、机の上のコーヒーに気づいて手を伸ばし、一息に飲み干した。
一気に傾けられたのは、それが飲み頃の温度よりかなり冷めていたせいだ。それほど、夢中で話していたことに改めて気づく。
今頃になって恥ずかしさと申し訳なさが込み上げ、僕は俯くと小さく「すみません・・・」と、聞き取り難い声で呟いていた。

医師は苦笑しつつも、大丈夫ですよ、貴重なご意見ありがとうございます、と肩を叩いた。

「仰ることは大体、理解できたと思います。ですが―」

「何か、おかしなところがありますか?」

斜め上向きに空を仰ぎ、少し考える素振りを見せると、彼はこう続けた。

「これは僕の推測なんですが・・・教授はやはり、自らの意思で命を絶たれたのではないかと思うのです」

「えっ・・・・・・・・・」

穏やかながらも、真っ直ぐな瞳を向けられ、僕は返答に詰まりただ驚くしかなかった。

「もちろん、あくまでも僕の個人的な意見として、の話ですから、あまり参考にならないとは思いますが・・・教授は、隷属する主の存在から自らの意思と判断で離脱した、とも考えられるのです。」