しばイッヌの日々

いち平民のライフログです。ひととなり詳細については『自己確認』をご参照ください。

『クリスマス・レター』※再録

クリスマスイブの午後、少年のもとへ、一通の手紙が届いた。賑やかな配色の、クリスマスカードとともに。


「親愛なるわが息子へ

この手紙が届く頃、パパの部隊は束の間の休息を約束されていると思います。

手紙を書きながら見上げている星空は、君の居る空へとつながっています。

いつ何処にいても、パパは君とつながっています。

ところで、君は何故戦争が起きているか知っていますか

そして、何故戦争をしてはいけないか知っていますか

戦火の真っ只中にいる私が、こんな事を言うのはおかしな話かもしれません。

でも、今だからこそ、世界中の人たちが幸せに包まれるクリスマスのこの日だからこそ、君に考えてほしいのです。

恐らくパパも、君と一緒に改めて、戦争について考えたいと思ったからでしょう。

パパが家に居ない間、ママの言う事をよく聞いて、まだ幼い妹の世話をよくしてくれていると、ママから聞いています。

パパがこの国を守る任務についている時、君はママや妹を立派に守る任務を果たしてくれているのですね。

その事をとてもうれしく、また、君を息子に持った事を頼もしく、誇りに思っています。本当にありがとう。


ところで君は、『守ること』をどう考えていますか

『正義』とは何だと思っていますか

この戦争が始まった頃は、誰もが仲間や家族、国を守ることの意味や意義をしっかりと分かっていたと思います。しかしながら、長く続く出口の見えない戦いに、その本質は、随分と変わってしまったのではないかと思うのです。

確かに、誰かを守る為には攻撃もといわない考えになることは確かです。むしろその方が手っ取り早い為、仕掛けられていないものにさえ、率先して牙をむくことさえあります。やられたら終わりだ、と思い焦るあまりに先走ってしまう所為でしょう。

しかしそれでは、多くの無益な血が流れ、無意味に罪なき犠牲者を増やすのみです。

それは果たして正義といえるでしょうか

いいえ。

戦争においては、それが正義とすり替えられてしまうことさえあります。そしてそれが、戦争の恐ろしい罠であり本質なのです。

そうしてどんどん気づかぬうちに周囲を巻き込んで、本来守るべき大切なものにさえ、最終的には刃を向けてしまうのです。

もしかしたら、パパはもう既に、巻き込まれてしまったかもしれません。

だからこそ、君に言えるのだと思います。間違った正義で、守るべきものを失わないようにと。

最後に。

この戦争が終わって、来年のクリスマスにはママや君たちと過ごせる事を、心より願っています。」


怪訝そうに顔をしかめつつ母に見せると、彼女は何かを悟ったように頷き、少年の頭をなでた。

「あなたにはまだ、難しいかもしれないわね・・・さあ、クリスマスの準備が途中よ。飾り付けを手伝ってくれるわね

少年は途端に表情を輝かせ、嬉しそうに母親のあとをついていった。

 

 

この作品は『小説家になろう』サイトにて2013/12/16に投稿したものです。
(現在退会しています)