そんな心配をしていると、電話が鳴った。
「ハルカ電話よー!部屋に切り替えようかー?」
「んー、おねがいしますー」
自室に電話を引き込んでいて良かったな。
しかし若干アナログタイプなのが面倒なのだけれども。
受話器をとり、再び叫ぶ。
「いいよー、切り替えてー」
「はーい!」
母の返答後、ガチャン、ジー、という音とともに、雑踏が耳に届く。
「もしもし」
「あ、僕です!」
「バイトおつかれー、かな?」
予想通り彼だった。昨日と同じシチュエーションかと思われる。
「あ、はい、お疲れさまでした!・・・・ですね!」
時々天然が入るのは彼の人柄だろうな。笑いが噴きだすのをこらえる。
「あ、そういえばさ、メール読んだよ」
「ああ!見てくれたんですね!」
「・・・てゆか、元気そうだよね。メール受信時刻見て心配したんだけども」
元体育会系のせいなのか、本人の性分なのか、元気全開のトーンが続く。
こっちは定刻で仕事上がりだけど、家に着いたらぐったりだよー。
若さっていいよなー、とか思ったりしたらダメなんだろうなあ。
「ああー・・・でも、睡眠はしっかり取れたので、平気です!」
ああじゃあ、メール受信時刻は正しかったんだな。
彼の話によると、帰宅後シャワー浴びてご飯食べて、寝る間際に思い出してしばらく空見上げていたらしいんだけど、やっぱ疲れが出て寝てしまったようなのだ。窓開けたまま。
「無用心というか無防備すぎるというか・・・よく風邪引かなかったよね・・・」
「あー・・・でも、くしゃみで目が覚めました。身体もかなり冷えちゃったので、毛布取りに行ってから、窓閉めようとして」
「順番逆のような気がするんだけど」
呆れるを通り越すんですが。
「いや、まだ空暗かったんで、もしかしたら見られるかなーと思って・・・そしたら、二ついっぺんに見られたんです!それで、嬉しくなっちゃって」
メールを打った、と。
リアルタイムにケータイ鳴ってたら、何事かと思うよその時間ってば。午前四時。あっちの世界へ引き込まれるんじゃないかって怖くなるっつの。
「それで、まだ時間有るなと思って、寝たんですけど・・・」
起きたのが昼前だったそうな。
「・・・講義が午後でよかったね」
「はい!助かりました!」
溜息混じりに慰めるも、真意は受け取ってもらえなかったようだ。まぁ、それが彼らしいところだろうから、もういいや。
朝も昼も食いっぱぐれたらしいので、講義のほとんどは集中できてないだろうな。
バイトもギリギリ駆け込んでるから、マトモに食べられてないはずだ。
「夜ご飯は、しっかり食べなよー」
「はいっ!これから大学の友達と飲み会なんで、がっつり食べてきますー!」
ああ、そうなんだ。それでこんなにさっきから元気に浮かれているのか、成る程。
「合コンがんばれよー」
「はい・・・じゃないです!男ばっかりで飲み会ですってば!男子会です!」
「うん、まぁ、どっちでもいいよ、楽しんでおいでー」
いたいけな天然男子をからかうと面白いなー。
「はい!じゃあ、行って来ます!おやすみなさい!ハルカさんも風邪引かないで下さいね!窓開けて寝たらダメですよー!」
「君が言ってどうするよそれ。ああ、経験論ね、OK把握。だけども、そっくりそのまま返すよその言葉。じゃあ、おやすみー」
根っからの陽気な性格の所為か、彼との電話は賑やかなまま締めくくられるのが常だった。
―やっと二十歳になったんだっけな。飲まれるなよー。
一方で、随分前に成人式を済ませた私は、まったくアルコールを受け付けないからな。今までは年齢制限として飲めなかったからよかったものの、こちらに合わせて気を使わせたくない。
「結構飲めることが分かったからなー」
今日もし流れ星を見つけてていたら、アルコール耐性を増やしてくれとか願っていたかも知れないな。
または。
「アルコールがこの世からなくなってくれ・・・とかは無理か」
非合法でヤバイものが逆に蔓延するかも知れない。アルコールがあるだけ上手く、世界が回っているだろうかも知れないし。
「あ、聞くの忘れたけど・・・ああ、こういうのは聞かない方がいいんだろうな」
『星に何か、願いをしたかい?』
カーテンを開けると、気温差で窓がかなり泣いていた。無論、外の景色は見えない。
「・・・相当寒そうだから、開けるの嫌だな。風呂入って寝よ」
それにもう、流れ星は見えないし。
カーテンを閉めなおすと、着替えを抱えて部屋を後にした。
(おわり)
※この作品は『小説家になろう』サイトにて2013/11/10に投稿したものです。