あの時私は何故、彼を止められなかったのか。
四半世紀の時を越えて尚、苦い思い出がじわりじわりと、胸の奥で燻り続けていた。
しかし未だに答えは出ない。
あの時彼に、何と言う言葉を返せばよかったのかを。
上手い事を言えば言うだけ、言葉は思いからどんどんかけ離れてゆき、心を見失ってしまう。
『俺が死んではいけない理由とは何か、言ってみろ』
感情のままに言葉を幾ら紡ぎだしても、真正面からその全てを否定された。
意地になっているのか、それとも何かに取り憑かれていたのだろうか。
われわれの意見は、ただの一言たりとも、交わることは無かった。
「未だに答えが出ないのであれば、あの時に何も言えないのは当然ではありませんか?」
男は、私をなだめるように微笑みながらそういった。
しかしそんな気休めが、私を癒すことは出来ない。
「そうかもしれません。しかし答えを見つけ出せないままでは、私はいつまでも後悔し続け、これからを背負って生きていくことになるのです。それが私の償いだというのならば、それはそれで構いませんが・・・」
男は少し考えてから、こう言った。
「そうですね・・・つまりは、そういうことなのでしょう」
「?・・・一体何が、どういうことなのですか?」
理解しがたいという風に返答すると、男はゆっくりと語りだした。
「彼が放棄した苦しみと人生を、あなたが背負わされるということですよ。それが、彼を引き止めなくてはならなかった理由ではないでしょうか?今なら、あなた自身が見に沁みてその辛さを体感できているはずです。」
失ってから気づく、ということは、正にそういうことなのかも知れないと。
しかしそれを、彼が命を絶ったあの日からずっと、引き受けていたのにもかかわらず。
それが果たして何だったのかという事実に、今ようやく気づいたのだった。
※この作品は『小説家になろう』サイトにて2013/10/30に投稿したものです。